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神の木と崇められ守り続けられてきた『松』

2021年11月18日

一概に『木』のお家と言っても、どんな木があって、どんな特徴があるかご存知ですか?

意外と知らないことも多く、でも知ることで家を建てるときに、その場所場所にあった『木』を選ぶことができますし、一つ一つ家に使われた木々に愛着を持つことができると思います。

経年が魅力の『木』を楽しむためにも、ぜひ、これを見て一つずつ知識を広げていき、見た目や雰囲気だけでじゃなく、自分好みの木材が選べるようになってもらえたらといいなと思います。

今回は、日本人に馴染みの深い『松(マツ)』についてお話しします。

マツと呼べるのは、マツ科のマツ属だけです。

マツ科マツ属

クロマツ(黒松)、アカマツ(赤松)、トドマツ(椴松)、ヒメコマツ(姫子松)、リュウキュウマツ(琉球松)

名前に「マツ」と付かないマツ科マツ属

ポンデローサパイン、イエローパイン、ラディアタパイン、メルクシパイン、DIY店でお馴染みのホワイトパイン

その他のマツ科

カラマツ(唐松) :マツ科カラマツ属

エゾマツ(蝦夷松):マツ科トウヒ属

トドマツ(椴松) :マツ科モミ属

ベイマツ(米松) :マツ科トガサワラ属

 

その中でも、マツ科マツ属の『黒松』『赤松』は有名どころです。

黒松が雄松(おまつ)と呼ばれるのに対し、赤松は雌松(めまつ)と呼ばれます。

日本の代表的な風景に欠かせず、有名な松林には美保の松原、静岡の千本松原、東海道松並木、天野橋立などが挙げられます。

美保の松原

 

静岡の千本松原

静岡の千本松原

 

東海道松並木

 

天橋立

天橋立といえば、海に細長く突き出た砂州に松を茂らせて、天下の絶景として知られています。

丹後国の風土記によれば、天橋立の長い砂州は、神が天に通うための梯子(はしご)が倒れてできたものとされています。

実際に、砂州の南側にも北側にも多くの社寺があり神仏が祀られています。このような聖域の清浄を守るために、松林を守り育てていかなければなりませんでした。地元の人々の手厚い保護がなければ、今日までこの景観は守られなかったことでしょう。

 

松は神の木

松は瑞木であり、神の依代として、老松は一本ずつに故事来歴が語り伝えられています。

日本の松でその代表の中でも、結婚式でうたわれる謡曲『高砂』は、藩州高砂の浜で老夫婦(実は松の精)に会い、めでたい松の話を聞くというもの。この話もあって、赤松と黒松の相生(二本の松の枝がついたり幹が寄り添ったりしているもの)の松が夫婦和合と長寿を表す、最高にめでたいものとされるようになりました。

また、他にもお祝いするおめでたい詞句には、

松竹梅=三つとも寒さに耐えるところから、歳寒の三友とよび、めでたいものとして慶事に使われる。

松の内=正月を祝う期間。松飾りを飾っておく間

松飾り・門松=正月に門前や軒先などに飾り立てる松(年神様をお迎えする準備が整いました。というお知らせの意味)

松の間=宮殿の中央に位置し、重要な儀式が行われる「正殿(せいでん)」の中でも最も格式が高い部屋です。江戸城中の外様(とざま)大名の詰め所で、大廊下とのしきりの襖(ふすま)に、狩野探幽の筆による松の絵が描かれていたことでこう呼ばれた。

こうした言葉から、格式高い木であるとされてきたことがわかります。

 

木材としてのマツの特徴は

マツを用材として使用され始めたのは、製材用具が開発されてからで比較的近年と考えられています。

鉄製の製材用具が少ない時代は、ノコギリではなく楔(くさび)を打ち、木を割って板を作っていたので、割れにくい松は広葉樹と同様に敬遠されたのでしょう。

しかし、耐水性の高さゆえ、湿気のある場所でも土木用材として使われてきました。

皇居の堀の石垣の基礎にもマツ材が使われています。また、水車もみんなマツで作られてきました。

比較的比重が重く強度に優れているマツは、重構造材に多く使われ、ヤニと曲がりのために柱にはあまり使われませんが、丸太梁は特徴を生かした日本独自の使い方です。

木目は濃淡のコントラストが美しく床の間などにも意匠的に使われます。特に、茶室や数寄屋の床柱として皮付きの赤松丸太は人気があり、落とし掛けや天井の棹縁(さおぶち)などにも使われます。

 

クロマツ(黒松)

【樹名】

 クロマツ

【科名】

 マツ科マツ属

【心材の色】

 淡赤褐色

【辺材の色】

 白褐色
【産地】

 北海道を除いた日本全土

【加工性】

 容易

【糊付接着性】

 良好

【適応箇所】

 耐久性に富み構造材での使用に適する

【主要用途】

 構造材、建具材

クロマツの樹皮は、明瞭な鱗状で大木の勇姿はまさに竜が昇天していく姿に例えられます。

そのため各所の自社仏閣で社木として大切に育てられ、かなりの大木が残っています。

松脂(まつやに)を取るのはアカマツよりもクロマツのほうが良いと言われています。

松脂は石鹸の凝固剤として需要がありました。

上手に乾燥されたクロマツ材は、脂が染み込んで特別に美しい光沢が出ます。

これは、老松(おいまつ)と呼ばれ縁甲板の最高級物とされ、老松の床の間板は最上級品で床の間の脇の地袋の前地袋にはマツを使うのが常識とされています。

クロマツは水分の多い土中で強い耐腐朽性があります。反面、湿度の高い空気中ではかなりの早さで腐食が始まります。

水中耐久性を利用して、クロマツ材は橋や港湾の杭、桁、扉、水門にも使われます。

 

アカマツ(赤松)

【樹名】

 アカマツ

【科名】

 マツ科マツ属

【心材の色】

 淡白褐色

【辺材の色】

 白褐色
【産地】

 北海道南部〜九州

【加工性】

 容易

【糊付接着性】

 良好

【適応箇所】

 耐久性に富み構造材での使用に適する

【主要用途】

 構造材、建具材

アカマツの最も有名な利用は、土中杭です。

水分のある土中に杭として打つと腐食しにくく、明治以降に需要の増えた鉄筋コンクリート作りのビル建設の土中土台に使われました。東京の丸の内ビル群は、岩盤上に堆積した河口土砂帯の上の軟弱な地盤の上の建っているので、建物の基礎として1坪に6〜9本、40尺のアカマツ丸太を打ち込んでありました。

昭和60年代にその古い建物群が取り壊されて改築され始めましたが、土中から引き抜かれたアカマツの杭はまったく腐っておらず、梁材に製材されて再活用されました。

 

カラマツ(唐松)

【樹名】

 カラマツ

【科名】

 マツ科カラマツ属

【心材の色】

 紅褐色

【辺材の色】

 帯褐色白色
【産地】

 天然カラマツは信州が有名、群生地は富士山中腹、日光周辺、八ヶ岳周辺等の火山地帯が有名

【加工性】

 鋸挽:容易  鉋掛:やや困難

【糊付接着性】

 やや困難

【適応箇所】

 鮮やかな木目を活かして床柱、床框、落掛、長押など

【主要用途】

 建具材

 

カラマツは、マツ科ではありますが、アカマツ・クロマツなどのマツ属ではなく、カラマツ属の落葉針葉樹です。

日本の針葉樹の中では、唯一落葉します。

明るいとこを好み、耐寒性が高く、地味の悪い土地にもよく耐え、火山灰地にもよく育ちます。

ただし、この林が大きくなるとその陰にツガやトウヒが育つので、人手が入らないとカラマツの林は一代限りのものになってしまいます。

天然のカラマツの材質は、年輪も細かく重厚な感じで、黒みがかった赤褐色の板目の木目は鮮やかです。

植林されたカラマツは、スパイラル状にねじれる性質があり板目面に斜めに干割れが並ぶという欠点が出ます。

天然カラマツは天唐と呼ばれ、樹心に近い部分も年輪が粗にならず、辺材に至るまで均等に詰んだ年輪が並んでいます。

天然カラマツの節の少ない良材は重厚な色調と鮮やかな木目を活かして、床柱、床框、落掛、長押に推奨されています。

 

まとめ

マツ(松)の木は、古くから鑑賞用としても親しまれ崇められてきました。

そのマツが作る景色は美しく、神との繋がりを感じさせる景観は誰をも圧巻させるものとなります。

しかし、それは人々の手厚い保護を持って守り続いていってるのを忘れてはいけません。

建築現場では、縁の下の力持ちとして構造材には欠かせない存在となっています。また梁に使われたときはその迫力に魅了されます。今回、マツのことを知った上で家にかけられるアカマツの梁を見るとまた違って見えてきました。

ぜひ、動画でもマツを楽しんで頂けたらと思います。

赤松の太鼓梁墨付け刻み動画

https://youtu.be/Nf6Yo2L–Qw

 

参考文献:木材大事典200(誠文堂新光社)、日本の原点シリーズ 木の文化(新建新聞社)

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